講演録『また行きたい!を生み出すホスピタリティの秘訣』Part2
「ホスピタリティを実践するには?」の問いかけから始まり、話題はスタッフの教育へ。そこで「部下は、上司に扱われたようにお客様を扱う」という発言が。その真意とは?
2017年10月1日開催
しつもんカンファレンスin OKINAWA セッション7A
▼登壇者情報
スピーカー/
鈴木 克彦
あなたの才能を見つけ出し売上げ平均4.9倍にする起業家育成の専門家
上杉 祐子
(有)フェスティーナ 代表
田頭 和み
豊受株式会社 代表
1日1組様限定お食事処「おなかま」 女将
質問家/
兼重 日奈子
(有)ねぎらいカンパニー代表
どうやったらホスピタリティを実践できるのか?
兼重: すてきなお話が出たんですが、ホスピタリティとか、ぜひ聞きたいと思うのは、どうやったらそれが実践できるのか? 毎回、感じるんですけど人によるんですよね。この人にはできるけれど、この人にはできない。全体を上げていくという難しさを私は感じていますが、のっぽさんはいかがですか?
鈴木: 今、何を聞いていますか?
兼重: ハッハッハッ(笑)。 AさんはできるけれどもBさんはできない……、Bさんをどうするか?
鈴木: 僕はそれでいいと思います。
え~とね、大切なのは目の前の人を幸せにしたいと思ってやったエネルギーであれば、僕はその結果がどうであろうといいと思うんです。逆にそれをスキルで覚えることの方が弊害が多いと思います。
世の中の人はスキルを覚えたがりますが、やはり、心が大切なんですよね。できるようになるまで、愛情を持って待つというのがいちばんの勇気だと思います。
兼重: なるほど、まさにそう思います。
鈴木: みんなに求めるものじゃないです。できるようになった人からどんどんできるようになったらいいと思います。あとはそれを育てるという概念からすると、その環境をつくるのが上手か下手かだけ。それ、一つだと思います。
兼重: 人が育ちやすい環境ということですね。
鈴木: それはリッツカールトンを見るとよくわかりますよ。あそこに行くと、みんながそういうことを考えているから変に教えるより考えさせるその環境の方が勝っちゃうんです。
兼重: 勝っちゃう?
鈴木: 教育して、教えてというスキルのものではないのですよ。
兼重: やり方ではなく行動?
鈴木: その裏側を見たい方、いますか?
(はい!って司会者、スピーカーも手を上げる)
じゃあ、来年の3月を楽しみにしてください。今、そういうのを創っています。ぼく、裏側を見せるのが好きなんです。
でも、3月まで待てないという人いますか? 3月まで待てないんだったら、12月にマウイ島まで来ていただいたら(笑)。
兼重: のっぽさんがリッツカールトンで毎年、セミナーをされているそうで、毎回、満席になられるそうで、ビジターよりリピーターが多いそうです。
鈴木: 圧倒的にリピーターです。
兼重: そこも知りたいですよね。個人でセミナーやセッションをされている人が多いと思うんですけど、リピーターに来てもらう秘訣が何かあったら話していただけますか?
リピーターに来てもらう秘訣とは?
鈴木: 参加した人たちが満足しない状態で帰さない。期待を超えるということをすること。自分が話すことではなく、参加者のニーズ、欲求にフォーカスしないと無理でしょうね。自分本位の人には無理です。それだけです。常に相手の期待を超えるという視点でできるかです。
兼重: 質問いいですか? 相手の期待を超えるために何をしていますか?
鈴木: 相手のニーズを聴くこと。ぼく全部、聴きます。ぼく、セミナーをやる前に1時間ランチをするんです。受講生と一緒に。こういうやり方をしている人は日本中に誰もいないでしょう。
ぼくは、全部、聴きたいことをヒアリングして、それからセミナーをやるので、セミナーの内容をその人たちの業界向けに全部わかりやすいようにカスタマイズして話します。
兼重: それでこそ、まさにみなさんが聞きたいことで、目の前の人に喜んでもらうためのすべてですね。
ゆうゆさんは、ご自身でブライダルサロンをされていて実践されていることはありませんか?
ゆうゆ: サービス業の人たち、ブライダル業界もそうですが、現場でバタバタしてしまうとクレームなく行うことに一生懸命になりがちなんですね。そうなるとお客様が求めているものが見えなくなってしまうことがあります。
たとえば、沖縄にいらっしゃる方は、沖縄の空気やリズム、沖縄の癒やしを味わいたいと思っておられるのに、東京のリズムのままカチッとやってしまうと、完璧なものでもその土地の空気感とか、そこでしか提供できないものが、提供できなくなってしまいます。お客様は、そこでしか感じられないものを求められています。
また、スタッフもお金と時間をかけていろんな経験をして欲しいなと思っています。そうじゃないとお客様の感覚がわからないので、それしかないと思います。
兼重: そうですね。
ゆうゆ: お客様の求めるものを感じる。どう感じるか?自分の感度を高める。100%できないにしてもその時にできることをする。そうすることで、お客様も満たされ、お客様の笑顔を見て自分も満たされていくと思います。
兼重: なごさんもチームで動いておられるんですね。全員でホスピタリティを実践するには、どうしたらいいですか?
和み: 本当に「祈り」を大切にしているので、朝礼で、「昨日の誰に祈りたい?」とかを話しています。
兼重: すごい質問ですね。
和み:「 ◯◯さんがどうしてくれたから祈りたい」というのは、お客様ともスタッフ同士もあります。
私、教えるのは苦手と気づいて、一切、教える系から切り替えているんです。私もお客様にもスタッフにも全部、聞いているなぁと思っています。
うちのヒアリングはものすごいです。すごく長いんです。どういう人で、何人で、どういう働き方をしていて、病歴とか、いっぱいヒアリングするんです。
お客さまの「やってあげたい」という気持ちも受け取る
和み:お二人の話を聞いて、この現象をどう思われるか、意見が欲しいんです。
私の中でお客様が越えてくるんです。一日一組様をスタッフ一人で回すんですけど、お客様が手伝ってくれるんです。100%食べた物は、カウンターに返してくれる。許してくれるならば、洗い物をしてくみたいな。
年齢層とか、働き方にもよるんですけど、また、そんなこと期待しなかったですけど、お客様が越えてきてくださって、結果、何が起こっているかというと、5、60人の登録ボランティアさんがいて、うちの緊急時に「集合」というと、みんな「きゃ~」ってイベントのように集まって手伝ってくれるんです。
それがホスピタリティなのでしょうか? そういう人たちがいちばんリピートしてくれます。「教えたい」って仲間を連れて来てくれる。
兼重: スタッフになっちゃいたい!
和み: ねずみ講のよう(笑)。
兼重: すごいですね。
和み: な~んか、講師とかこれからやりたいと思っている人は、「ぜひ、手伝いたい」という顔をしている人がいると思うので、スタッフ兼広報番長がいたりするんですよ。どういうものでしょう?あれなんですか?これがホスピタリティでしょうか?
鈴木: それは返報性の法則が働いているんですが、ミヒロさんの言葉でいうとなんだっけ? ゴリヤク!人はもらったら返したいんだよね。いっぱいもらっているから、返したくなっている。
和み: あげたんだ~、知らなかった、私。
鈴木: それを奪い取るのは、ぼくは、ホスピタリティではないと思います。相手が満足して「やってあげたい」という気持ちなんだから、受け取るだけ。
昨日、大阪でセミナーをやっていて、夜のフライトだとわかったら、みんな手伝ってくれます。
兼重: なるほど、なるほど
鈴木: ぼくは、そのままじゃつまらないので、人に役立つことを話したり、そんなことを常に考えています。お互いにそういう受け取り合いをしているのがいいのかと思います。ときどき、頼ってあげるとすごく喜ばれます。
和み: お店の勝手をみんな知っているから。すごい、みんなに伝えてくれて、楽ちん!
鈴木: よくわかります。
和み: そうなの
ゆうゆ: もう既に家族になっている。テリトリーができて、関わることで身内意識が生まれているんですよね。
鈴木: お客さんにとって、ホームなんですよ。
和み: お帰りなさい。
鈴木: そういうことですね。
兼重: 「これがうち流のおもてなしだ」というのは、ゆうゆさんありますか?
ゆうゆ: しっかりした定義はないんです。なんでしょう?全員が同じ気持ちでできているかどうかはわからないですが、私は、訪れる方に楽しみを、帰られる方に喜びを、それは、仕事だけではなく、誰かと会うときにも、そういう気持ちでいられたらいいなと思っています。
私もできるだけ、特にブライダルの方には最初のカウンセリングの時間をすごく長く取っています。
兼重: そりゃそうですね。
ゆうゆ: どんどん親しくなって、親族の一員になっています。結婚式後も家族ぐるみでお付き合いさせていただく方が多いです。それがホスピタリティに繋がっているのか、わからないです。
(ゆうゆと鈴木さんと二人向き会って頷く)
鈴木: 難しいですよね。僕もよくわかります。
兼重: それで、広がっていっているというのは当然あります。
ゆうゆ: ご縁を大事にしたいからこそ、どんなに思っていてもどこかで100%ではないので、ときどき胸が痛むということもあり、なかなか理想どおりにはいかないこともあります。
日本のおもてなしのレベルは?
兼重: 日本のおもてなしのレベルというのは、世界的に見てどうですか?
鈴木: 高いでしょう!トップクラスでしょうね。間違いなく。
言い忘れてはいけないのは、日本人の顧客の意識も世界一です。「客だから」と言い出したら、絶対に聞かないと思う。こんな国民は日本人だけ。
兼重: 常々、お客様には優しい国でありながら、働く人には厳しいというシステムになってしまっているのではないかと思っています。
鈴木: 厳しいってどういう意味?
兼重: たとえば、クレイマーとか。
鈴木: クレイマーは多いね。日本ではサービスを無料にしたから。サービスが当たり前と思っているから。八百屋のおばちゃんの「おまけしとくよ」という感じで、サービスとおまけが一緒になってしまった。こんな国は日本だけですよ。
兼重: おもてなしをする側、経営者の方々はいいことをされているんだけど、どんどん磨り減って、疲れてきちゃうということがあると思いますが、そのような人たちに、どう言ってあげたらいいのか…。和みさんはどうですか?
和み: はい、私、カウンセリングも仕事にしているので、男性と女性は全然、考え方が違うよなと思います。スタッフの場合、女性が多いので、女性に対する話し方と自分のことをコントロールしています。
だから二つをお伝えしようと思います。
女性には「人のために」という言葉は言ってはいけないと思っています。掛け算なんですよね。プラスとプラスをかけちゃうとマイナスになっちゃうような…。
鈴木: ブラスとプラスをかけるとマイナスになっちゃう? ブラスとプラスをかけてもプラスになっちゃうよね。
和み: 間違ってます? マイナスとマイナスをかけたら?
鈴木: プラスになっちゃうよね (笑) 。 言いたいことはなんとなくわかるよ。
和み: やさしい~(笑)。
おかしくなっちゃうんです。発想が人のためだから、その人たちに「人のため」と言うと、なんかもう、鶴が羽根を抜いてやっています、というような状態になるし、私もそういうタイプだったです。
魔法の質問で『シャンパンタワーの法則』とか学んでからは、自分を満たしていく女性は幸せになっていっているので、「誰々のために何かをしなさい」とは、絶対に言わないんです。
経営者なので意思が強いし。ほっといても実行力があるので、「すご~い」と言っている。それでも不満な顔をしていたら、「大丈夫!大丈夫」と言っている。
兼重: すてき!
和み: 自分のコントロールは、この状態に入るためにシャンパンタワーを使っている。
スポーツ選手のようにこれを食べたらそういう状態に入るとか、今日は鼻うがいをしたから入るとか、実験をして遊んでいます。その状態にチューニングするために、自分に何をしたらいいのかを試しています。
兼重: まさに無我夢中!そういう状態に入れるようにしておくんですね。体に聞いている。入れ方は自分で知っておく。
和み: はい、研究中です。
兼重: サービスをしている人が疲れている現象をどうしたらいいのでしょうか?
鈴木: 今、聴き入っていたので、質問をもう一度お願いします。
兼重: サービスをしている人が疲れている現象をどうしたらいいのでしょうか?
ホスピタリティを教えるには、リーダーを育てる
鈴木: あぁ、ホスピタリティ教育をするには、どうしたらいいかということですね?
何かというとさっき、エンゲージという言葉を使いましたが、お客様にエンゲージしてもらうには、まず、従業員をエンゲージしないといけないんです。従業員の満足を上げないといけない。
そして、もう一つ、覚えておいてほしいのは、部下は、上司に扱われたようにお客様を扱う。
兼重: 上司に扱われたようにお客様を扱うんですね。
鈴木: 自分がふだんからよく扱われていたら、きっとお客様を良く扱うはずです。これは原理原則です。
消耗しているというのは、上司が消耗させている。その人たちにサービスをさせるともっと磨り減っていくね。ちょっとお休みをさせるとか、何かをやるというのが黄金律と言われます。
兼重: どこから始めたらいいですか?
鈴木: 自分がリーダーシップを取らないといけない。スタッフが、リーダーとしての自分の言うことを聞いた時に明るい未来が見える、というふうに思わせないといけないんです。上司はリーダーとして部下の資質を開花していかないとホスピタリティは教えられない。
兼重: まさに。
鈴木: これは鉄板で、これを外すと意味がない。
兼重: リーダーを育てる環境みたいなのはあるんですか?
鈴木: ぼく、今、創っているんです。季節ごとに、リッツカールトンの中にいったり、加賀屋の裏側を見せたりしています。
リーダーの育成のカリキュラムは、日本にはほとんどないです。マネジメントを教育できるところもリーダーを育てる機関もほとんどないんです。
リッツカールトンにはリーダーシップセンターというのがアメリカにあって、ぼくはそこの責任者を呼んで日本で3回ほどセミナーをしたんですけど、そういうリーダーを育てる環境をつくりたいというのが僕のヴィジョンにあって、やはりいい環境を見せないとわからないんですよ。
見たことのない人に「わかれ」というのは、無理だと思うんです。なので、そこにどっぷりと浸かる必要があるので、そのような環境を創るようにしているんです。良い環境を見たことのない人に良い環境を創れ、というのは無理です。
兼重: そうですね。まずは、実体験をもっていないと教えられないですよね。
鈴木: まずは、リーダーが良い人たちと付き合って、いい言葉を使って、常に頭の中が活性化して安定している。そういうリーダーをつくっていくというのが、大事なんじゃないですか?
鈴木: いい状態の人たちに囲まれて、そんな人たちに影響力を持ってほしいですね。
兼重: そうですね。
鈴木: 僕の考え方に間違いがないんだなと、今、わかりました。(笑い)
ゆうゆ: リッツカールトンのセミナーはいつ受けられますか?
鈴木: 来年の3月です(笑)。
和み: 東京は?
鈴木: 東京はないんだよね~、マウイ島まで来てください。
新人は、笑顔でお客様の表情を見ることから
兼重: ゆうゆさんは、働く人たちが擦り切れないためにというのはどう思いますか?
ゆうゆ: 擦り切れないために自分が楽しく仕事をしていく姿を見せればいいかなと前に思っていたんですけど、スタッフに「いつも楽しそうですね」と言われたんです。
鈴木: それいいね。その輪に入れてあげてください。
ゆうゆ: 入れているんですよ。私がオープンすぎるらしいんです。
鈴木: 難しいんだね。
ゆうゆ: スタッフは私を放し飼いにしているらしいです(笑)。 さっきのお話を伺って、私、できないし、駄目だわ~という状態です。
ただ、うちは「きっちりしたマニュアルを守りなさい」というようなものはなく、とにかく感覚でしか伝えきれないんです。しっかり伝えられる方がいらっしゃればと思っていたら3月と聞いて、とても今、嬉しく思っています。
あとは、私たちの仕事で言えば、美容技術の世界では、まだ技術を十分に習得していない新しいスタッフが、アシスタントとして先輩から技術を習得していくうえでは上下関係もはっきりしています。その中でも、技術以外で自己価値を高め、貢献できることを意識することが大切だと思います。
先ほどの無我夢中になるのと別なんですけど、職人気質の技術者だと自分のやっている仕事に没頭しすぎる時があります。
たとえば、お客様のご要望どおりにやろうと必死になって、手元を見ているんですね。ただ、そうするとお客様の笑顔とかお顔の表情は、創っている人はなかなか気づかなかったりします。「夢中になって、ここだけを見るのではなくて、必ず鏡でお客様の表情を見てください」と。
もしくは、技術ができないスタッフは技術者の先輩には遠慮がありますので、なかなか伝えづらいとは思いますが「まだ技術はできなくてもあなたのその笑顔で場を和ませて、お客様の表情をしっかりと見て、ちょっとでもお顔が曇っていたら先輩に合図して気づいてもらう。お客様が満足していらっしゃるかどうかが大切」だと伝えるようにしています。
技術ができなくもできることは必ずある。笑顔でお客様の満足度に貢献できて気持ちが通い合えば、仕事のやりがいというものが見つけられる。そうしてくれたらいいなあ~と思っています。
兼重: なるほど、なるほど ありがとうございます。
(パート3 へ続く)
撮影:寺前陽司、上田修司、清川佑介